第2話「SOSの届く街」


ストーリー(9)

マンション入口では、住人が集まっている。

節子「すいません。何があったんですか?」
警察官「いいえ、とくに、事件とかそういうものでは、ありませんので。病人です。」
節子「何階のかたですか?」
警察官「それは、ちょっといえませんね。」

とし子「いったいどうしたのかしら、お隣。」
泰三「ともかく、自分で救急車呼んだんだ。致命的なものじゃないだろう。」
とし子「ねえ。もしかしたら、ひとりじゃなかったのかも。夜は。」
泰三「おいおい、変な想像するなよ。」
とし子「うっかり、お見舞いもいえないわね。探りを入れているみたいで。」
泰三「助けてくれって言われたら助ければいい。入らん詮索はしないことだ。」

節子「やっぱり、上のうちだったわ。あの音、本当にSOSだったのかも。」
礼二「だとしたって、ぼくたちに何が出来た?」
節子「知らなすぎるわね。隣近所のこと。」
礼二「仕方ないさ。かすかな物音聞きつけたくらいで、ドアをどんどん叩いて、どうかしたのかって世話焼けるか?そんな付き合いになるには、よっぽどなきっかけがなければ」
節子「やっぱり、とっても、こんなんじゃ、お母さんは呼べないわね。もうお歳だから、理香のお守りで疲れるだろうし、何が起こるかわからない。」
礼二「もういいよ。その話は。明日早いんだ。寝かしてくれよ。」

時枝が入院している病院で、京子がお見舞いに来ている。

京子「ねえ。仙台行って、私と一緒に住まない?」
時枝「うんうん。いいの。心配しないで。もう大丈夫。完全に治るって、先生にも保障されたし、長いことありがとう。信彦さんにも迷惑かけちゃったわね。早く戻ってあげて。」
京子「じゃあ、お兄ちゃんに帰ってきてもらう?」
時枝「だめよ、青年海外協力隊、ママが勧めたのよ。今頃は、アメリカの奥地で、がんばっているわ、あの子。こんなことで、呼び返せない。」
京子「意地っ張り。懲りないのね、ママは。」
時枝「冗談じゃないわ。もう、こりごりよ。こんな目にあうの。怖かった。2度といやよ。」
京子「それでも、また一人暮らし始めるつもり。」
時枝「心配しないで。今度は、気をつけるから。」
京子「毎日、電話かけなくちゃならない。」
時枝「そんなことしなくていいわ。今度は、あんなとき、どうやったら、お隣や、お友達に気づいてもらえるか、一生懸命、考えるから。」
京子「いったい、どんな方法があるっていうの?」
時枝「むずかしいわ。でも、いずれ、街の人みんなも、真剣に考えていくようになると思うの。だって、ママみたいな一人暮らし、これから、どんどん、増えていくんだから。なんとかして、安心して住める街にしていかなくちゃね。」
京子「気が強いんだから。まだ、動けもしないくせに。」
時枝「強くなんかないわ。ママは。自分がどんなに、弱くて、無力か、思い知ったわ。だからこそ、人は一人じゃ生きていけない。助け合わなきゃ生きていけないってことが、身にしみてるの。そのことを、これから、この街の少しでも多くの人たちに、伝えて生きたいのよ。」

時枝は、最後まで、一人暮らしをすることにこだわった。

その後、時枝は退院し、

いつも通りの、時枝の一人暮らし生活は、再開した。

(第2話 完)

前へ * トップページ * 第3話「タヌキと住む街」(登場人物)へ

※ 役者については、すでに一般人となっている都合上、プライバシーの配慮から目線を入れさせていただきます。ご了承ください。
※ 画像掲載に問題がある場合は、メールにて連絡ください。