第4話「公園の多い街」


ストーリー(3)

“と、そのとき、”

歌を歌っている、中年婦人が隣のベンチに座っている。

歌の中年婦人「私、この歌、つい最近覚えたのよ。この年になっても、覚えられるものなのね。」
母親「...」
歌の中年婦人「あなた、偉いわ。あんなとき、我を我をって飛びついていかない。今の時代、そのほうが勇気がいるのよね。」

母親「勇気なんかじゃありません。飛びついていけないんです。あの方たちの仲間に入れないんです。あたし、一人であの子育ててるもんですから。家庭教師なんてゆとりないんです。」
歌の中年婦人「あたしも、一人で、二人の子供、育ててきたの。その二人の子も社会人。巣立っちゃったもんだから、犬なんか飼って。さっきからここに腰掛けて、あたしには、公園で子供を遊ばせるなんて、贅沢な時間はなかった。そう思って、見ていたの。それでも、二人とも結構、グレもせず、たくましく育ったわ。もちろん、赤ちゃんの時から、英語を教えるどころじゃなかったわよ。でも、もう大丈夫。ちゃんと大きくなって、自分の力で生きていくようになるわ。」
母親「本当に、大丈夫でしょうか?」
歌の中年婦人「そりゃ、不安よね。分かるわ。あたしだって不安だったもの。子供が大きくなった頃、いったい世の中は、どういうふうになってるのか、誰にも、皆目、分からないんですものね。でも、その不安、絶対に、お子さんに、感づかれたらまずいわよ。泰然としてらっしゃい。そのほうがつらいし、努力が要るけど、まあ、不安になったら、今私が歌った、へたくそな歌でも思い出して頂戴。いくつになっても、英語を覚えられるって。少しは慰めになるわ。」
母親「その歌、私にも教えてくれませんか?」

“やっぱり、いいことがありました。この日、公園ですばらしい、人生の先輩に会いました。”

母親「龍くん。お天気になったね。公園に行こうか?」

“雨上がりの午後の、わずかな時間でしたが、その日も、近くの公園に行こうと、思い立ったのです。”

“おそらく、公園に来ている人は、少ないだろうと思っていました。今日は、誰にも会えないだろうと。”

と、思って歩いていると、見知らぬ女性から道を尋ねられる。

道を尋ねる奥さん「あの、すいません。この辺にテニスコートありません?公園のそばって聞いたんですけど。」
母親「テニスコート?さあ。」
道を尋ねる奥さん「じゃあ、レストランは?」
母親「すいません。テニスコートとかレストランとか、あんまり知らないんです。」
道を尋ねる奥さん「確か、この辺って聞いたんですけど。聞き間違えたのかも知れません。探して見ます。」
母親「すいません。お役に立てなくて。」

母親「龍くん、行こう。」
“私は、公園に行きます。”

前へ * トップページ * 次へ